風の便り episodo.41 


甲州道中 猿橋
土俵
 時津風部屋が大騒ぎである。街道を歩いていると、首都圏に住む人間には珍しい土俵がいたるところにある。小学校はもちろんのこと、公園の片隅等々。中山道の和田村では下校途中の子供たちの姿を見ることさえできた。相撲とは何だろう、もちろん国技としての大相撲が相撲であるが、そんなことさえ知らぬ子供でさえ相撲を楽しんでいる。都会の小学校では運動会の勝ち負けさえタブーで、騎馬戦はもちろんのことかけっこでさえ、1等賞が無い。子供にとって戦うこと、生身の身体を使って戦うことが失われようとしている。その中で、和田村の小学生には忘れていた教育を感じた。
 大相撲に憧れ、村の力自慢は将来を夢見る。別に勉強ができない訳ではないが、その体躯に親は期待する。もちろん天性の才能や運が彼を横綱へと導くわけだが、親には見えない。相手と裸でぶつかり合い、おのずとその優劣を付けて来た子供たちは、利害のための戦いに巻き込まれ、傷ついてゆく。預かる親方も、仕上げてなんぼの世界。自分に利益を還元できない弟子は消されてゆく。
 相撲だけはそうではなかったと信じたかった。親の教育も、学校教育も崩壊寸前の昨今、伝統的な慣習の中で子供たちの心も身体も鍛えられ守られている世界と思っていた。裸でぶつかり合う中には、自分より弱いものへのいたわりも生まれたはずだ、そのぶつかり合いが変質し、または禁じられた現代、そんな世界で子供たちは、どうやって他人への愛を育むことができるのであろうか。
 

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