風の便り episodo.20 


ウォーキングシューズ

 東海道を歩いた靴は,とうとう中山道の旅は勘弁してくれとばかりダメになってしまった。ジョギングシューズや登山靴など,色々試してみたが,やはりこの靴が一番足に合っていた。後半ではまるで履いている感じがしないほどフィットし,旅を支えてくれた。
 普段,靴を履くのに,たとえ紐の付いた靴でも,いちいち紐を調整することはないが,東海道の旅は違う。駅に降り立って,さあこれから頑張るぞとばかりに紐を締める。この瞬間はスポーツのスタートの瞬間に似ている。ピストルの音を心の中で鳴らして,自分だけのゴールを目指しスタートするこの瞬間には,緊張と喜びが溢れている。
 旅を終えて,帰りの列車,主人は車窓に今日の想い出を捜している頃,紐を解かれた靴は,汗をたっぷりかいたランナーがゴールで荒い呼吸をしているようでいとしい。履くときにあんなに大きく見えた靴が,座席の下でへとへとになって小さくなっている。しかし自宅の戻ったとき,彼はまた下駄箱の一番上で町歩きのやわな靴たちを見下ろして,次の旅が近づくに従って大きくなる。

戻る